愛想モルフィズム

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段論 #3 群・環の下段環

 \newcommand{\zz}{\mathbb{Z}}  \newcommand{\gg}{\mathbf{G}}  \newcommand{\ff}{\mathbb{F}}  \newcommand{\gcd}{\mathrm{GCD}}  \newcommand{\nn}{\mathbb{N}}  \newcommand{\gg}{\mathbf{G}}

見切れている数式はスクロールすると読めます

dafuyafu.hatenablog.com

前回までの記事で一般にモノイドの場合について下段環を構成した.今回は群や環についての理論を整理する.

群の下段環

 G を群, L(G) をその自由下段環とする.

命題3.1 G がアーベル群であることと,その任意の下段環  A可換環であることは同値.

証明 ( \Rightarrow)  G の可換性は  G \cup G^{-1} に誘導される.これは, x, y \in G について

 x^{-1} \cdot y = (x \cdot y)^{-1} = (y \cdot x)^{-1} = y \cdot x^{-1}

となることから成り立つ.よって,任意の  \mathbf{x}, \mathbf{y} \in L(G) についても

\begin{align*} \mathbf{x} \cdot \mathbf{y} &= (x_1 , \ldots, x_r) \cdot (y_1 , \ldots, y_s)\\ &= (x_1 \cdot y_1, x_1 \cdot y_2 , \ldots, x_r \cdot y_s)\\ &= (y_1 \cdot x_1, y_1 \cdot x_2, \ldots, y_s \cdot x_r)\\ &= \mathbf{y} \cdot \mathbf{x} \end{align*}

となるので,自由下段環  L(G)可換環となる.よって,その任意の剰余環は可換環であるので成り立つ.
( \Leftarrow)  L(G) 自身も  L(G) の剰余環であるので仮定から  L(G)可換環.ここで, L(G) - \left\{ ()\right\} は積についてアーベル群をなすが, G はその部分群であるので, G もまたアーベル群となる. \square

例3.2.1 3次対称群  S_3 はアーベル群でないので,当たり前だが  L(S_3)可換環でない.この場合非可換環論の知識が必要なため(具体的には右イデアルと左イデアル,両側イデアルを区別しなければならないなど),一般に研究は難しいと思われる.

環の下段環

環はそもそも和についてアーベル群をなすので,自然に下段環を構成することができる.

例3.2.2 アーベル群としての  \ff_2 = \zz /2\zz の自由下段環  L(\ff_2) を考える.今,文字集合

 \ff_2 \cup \ff_2^{-1} = \left\{ 0, 1, 0^{-1}, 1^{-1}\right\}

となっており,これに空文字  () を加えた有限長系列であって,系列の文字を入れ替えたものを同値として,その同値類全体が  L(\ff_2) である.ここで, L(\ff_2)イデアル  \mathfrak{a} を以下のように定義する.

 \mathfrak{a} := \langle (0,0,0,0,0), (1, 0^{-1}, 0^{-1}) \rangle

このとき,

\begin{align*} 0^{-1} \cdot (0,0,0,0,0) &= (0^{-1}, 0^{-1}, 0^{-1}, 0^{-1}, 0^{-1})\\ &= 0^{-1} - (0,0,0,0) \in \mathfrak{a} \end{align*}

および

\begin{align*} 0^{-1} \cdot (1,0^{-1}, 0^{-1}) &= (1^{-1}, 0,0)\\ &= 1^{-1} - (0^{-1},0^{-1}) \in \mathfrak{a} \end{align*}

となるので, A = L(\ff_2) / \mathfrak{a} において

\begin{align*} () &= (0,0,0,0,0)\\ 0 &= (0)\\ 1 &= (0,0)\\ 0^{-1} &= (0, 0, 0, 0)\\ 1^{-1} &= (0^{-1},0^{-1})\\ &= (0,0,0,0,0,0,0,0) = (0,0,0) \end{align*}

が成り立つ.よって, 0 以外の文字はすべて  0 の何個かの和で書くことができるようになる.なお, L(\ff_2) A における積  \cdot \ff_2 におけるアーベル群としての演算である通常の和であることに注意せよ.

Claim:  A \simeq \ff_5

 \because)  f : A \to \ff_5

\begin{align*} &f( () ) = 0\\ &f( (0) ) = 1\\ &f( (0,0) ) = 2\\ &f( (0,0,0) ) = 3\\ &f( (0,0,0,0) )= 4\\ \end{align*}

とすればwell-definedな環準同型であり,かつ全単射となるので成り立つ. \square

よって, \ff_5 \ff_2 の下段環である.また,今の場合  \ff_5 が体であることから, \mathfrak{a} \subset L(\ff_2) は極大イデアルであることもわかった.

演習3-A  \ff_3 \ff_2 の下段環であるか.

以上です.査読よろしくおねがいします.演習の解答は次の記事で.