愛想モルフィズム

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トライアドコードとグラフ理論 #1

見切れている数式はスクロールで読めます

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 \newcommand{\zz}{\mathbb{Z}}  \newcommand{\gg}{\mathbf{G}}  \newcommand{\gcd}{\mathrm{GCD}}  \newcommand{\nn}{\mathbb{N}}

先日,オムニバス講義のグラフ理論回で,

トライアドコードのグラフをつなげてメービウスの帯を作る

という大変興味深い研究を知りました.

ここでは詳しくは説明しませんが,「n-triad coloring」と検索すれば出てくると思います.

ただ,その講義の中ではドからシまでの白鍵のみを考えていたため,特にメジャーやマイナーといった音階的な分類がされていなかったのが自分的に少し引っかかりました.そこで,黒鍵もすべて含めて同じようにコードからグラフを作ったらどうなるか?と考えたことがきっかけです.

Abstract

この記事では音楽におけるトライアドコードから着想を得たトライアドコードグラフを定義し,トライアドコードグラフのいくつかの同型が存在すること,連結成分数がほとんどすべての場合においてパラメータの最大公約数になることを証明し,それを用いて6つの主要なトライアドコードについてそのグラフの考察を与える.主要な結果としては,メジャートライアドコードグラフとマイナートライアドコードグラフは同型でありトーラス埋め込み可能であること,フラットファイブコードは2つの6次完全グラフを連結成分として持つことなどが分かった.

本論

定義 1  m,n \in \mathbb{Z}/12\mathbb{Z} (ただし,  0 \lt m \lt n)1 について,

 V = \zz /12 \zz
 E(m,n) = \left\{ (i, i+m), (i, i+n), (i + m, i + n) \middle| \ i \in \mathbb{Z}/12\mathbb{Z} \right\}

とし, \mathbf{G}(m,n) = (V,E(m,n)) とする.この  \mathbf{G}(m,n) (m,n)-トライアドコードグラフ という.

例 2.1 最も初等的なトライアドコードはメジャートライアドコードである.以下にそのトライアドコードグラフの構成を記す.以降,メジャートライアドコードグラフを  \gg_\mathbf{M} と表す.
今,無限に長いピアノの鍵盤のうち,ドを0,その上のシを11とする同値関係で割ることで鍵盤を  \zz /12 \zz で巡回していると考える.

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メジャートライアドコードはルート,それに対する長三度と完全五度という3音からなる.例えばルートが「ド」のときは「ミ」と「ソ」である.これを  \zz /12 \zz に対応させるとそれぞれ「0」「4」「7」となる.

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これは代数的には,ルート  i に対して  i, i + 4, i + 7 の音からなると考えられるので,トライアドコードグラフは  \gg(4,7) と表される. i 0 から  11 まで動かすと三角形のグラフが  12 個できる.

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これらの三角形の中で,数が同じである頂点を全てつなげることで  \gg(4,7) が作られる.トーラス上ではこのように表される.

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以上のようにして  \gg_\mathrm{M} が構成される.

例 2.2 主要なトライアドコードをもう5つ挙げる.

  1. マイナートライアドコードは  \mathbf{G}_\mathrm{m} = \mathbf{G}(3,7) と表される.
  2. ディミニッシュコードは  \mathbf{G}_\mathrm{dim} = \mathbf{G}(3,6) と表される.
  3. オーギュメントコードは  \mathbf{G}_\mathrm{aug} = \mathbf{G}(4,8) と表される.
  4. sus4コードは  \mathbf{G}_\mathrm{sus4} = \mathbf{G}(5,7) と表される.
  5. フラットファイブコードは  \mathbf{G}_\mathrm{-5} = \mathbf{G}(4,6) と表される.

補題 3 以下のような自明なグラフ同型が存在する.

 \mathbf{G}(m,n) \simeq \mathbf{G}(n - m, -m) \simeq \mathbf{G} (-n, m-n)

略証 トライアドコードはベース音のとり方が3通り存在し,それぞれルートを1番目,2番目,3番目に取るようにベース音を取ったコードに対応しており,いずれも同じトライアドコードを表す.

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例 4 マイナーコードグラフについて以下の自明な同型が存在する.

 \mathbf{G}_\mathrm{m} = \mathbf{G}(3,7) \simeq \mathbf{G}(4, 9) \simeq \mathbf{G} (5, 8)

注 4.1 自明な同型といった場合には上の3つのみを指す.音楽的には同じコードで3つのベース音のとり方がある(トライアドコードが3つの音からなるコードだから)が,代数的にも上の3つに限られることが分かる.例えば, \mathbf{G}(m,n) \simeq \mathbf{G}(n - m, -m) という同型だけ考えると,

\begin{align*} \gg(m,n) &\simeq \gg(n-m, -m)\\ &\simeq \gg(-m - (n-m), -(n-m)) = \gg(-n, m-n)\\ &\simeq \gg( (m-n)-(-n), -(-n) ) = \gg(m,n) \end{align*}

となり,同型は3つのみであることが分かる.他の自明な同型についても同様である.

命題 5 以下のようなグラフ同型が存在する.

 \mathbf{G}(m,n) \simeq \mathbf{G}(-n, -m)

証明

 \mathbf{G}(m,n) における頂点  i \in \mathbb{Z} /12 \mathbb{Z} を一つ固定して考える.頂点  i からは以下のように最大で6つの頂点に辺が伸びている.

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このうち, i-m i-n という2つの頂点に着目する.

Claim: 任意の  i \in \mathbb{Z} /12 \mathbb{Z} で以下が成り立つ.

 (i, i-n), (i,i -m), (i-n, i-m) \in E(m,n)

図より,明らかに  (i, i-n), (i,i -m) \in E(m,n).よって  (i-n, i-m) \in E(m,n) を示せば良い.いま,  i - m - n \mathbf{G}(m,n) の頂点である.さらにトライアドグラフの定義より,この頂点からは  i-m i-n の両方に辺が伸びており, i-m i-n 自体も辺で繋がっている事がわかる.よって主張は成り立つ.

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主張が成り立つので, E(m,n) \supseteq E(-n,-m) となる.同じ方法を  \gg (-n,-m) に適応することによって逆向きの包含が示せる.また,頂点の集合は明らかに等しい.よって2つのグラフは同型である. \square

系 6  \mathbf{G}_\mathrm{M} \simeq \mathbf{G}_\mathrm{m} である.すなわちメジャーコードグラフとマイナーコードグラフは同型である.

証明

 \mathbf{G}_\mathrm{M} = \mathbf{G}(4,7) \simeq \mathbf{G}(-7, -4) = \mathbf{G}(5,8) = \mathbf{G}_\mathrm{m}

このように,違うコードであるにもかかわらずそのコードグラフが同型になる場合がある.ここで,補題3にあるような同型は音楽的に同じコードを表すという意味で自明な同型であるが,集合論的には違うコードを表していることに注意が必要である.人間的には同じ響きかもしれないが,それらは数学的には異質であるということである.

この記事の表題にある画像は, \mathbf{G}_\mathrm{M} \mathbf{G}_\mathrm{m} が同型であることを図で示しているが,数学的にもこれらのグラフが同型であることが (系6) で示される.

スケッチ

以下では味わい深い事柄を少し並べる.

トーラス的トライアドコードグラフ

メジャートライアドコードグラフ  \gg_\mathrm{M} ,マイナートライアドコードグラフ  \gg_\mathrm{m} およびsus4コードグラフ  \gg_\mathrm{sus4} はそれぞれトーラス的である.つまり,トーラス上に埋め込むことができる. \gg_\mathrm{M},  \gg_\mathrm{m} は同型なので上の例のようにトーラスに埋め込まれる.また, \gg_\mathrm{sus4} は以下のように埋め込まれる.

メジャートライアドコードの部分スケール

 \gg_\mathbf{M} を以下のように表す.

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同じ数字の頂点は同じだと思えば,これはトーラス埋め込みだと思える.このグラフは,任意のルートについてそのメジャーペンタトニックスケールを連結部分として持つ.

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さらに,沖縄音階についても同様である.

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証明は簡単なので読者の演習とする.


今回は以上です.次回はトライアドコードグラフの正則性と連結成分について考えたいと思います.査読よろしくお願い致します.


  1.  \mathbb{Z}/12\mathbb{Z} における大小関係を便宜上  0 \lt 1 \lt \cdots \lt 11 とする.