愛想モルフィズム

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Milnor - The Fundamental Theorem of Algebra (Topology from the Differentiable Viewpoint)

見切れている数式はスクロールで読めます.

今日は趣向を変えてミルナー著「Topology from the Differentiable Viewpoint」から代数学の基本定理の証明を紹介します.ちょうど微分トポロジーの授業でここの部分が僕の担当だったからです.

代数学の基本定理複素数体代数閉体であるというものですが,なんか沢山証明方法はあるみたいですが,ミルナー本にあるやつを解説したサイトは見かけなかったので,今日はそこを書いてみるなー(激ウマギャグ)

流れ

まず証明の流れから説明すると,

  1. 一変数複素係数多項式とステレオグラフ射影を用いて単位球面から単位球面への写像を考える.
  2. その写像が単位球面上滑らかであることを示す.
  3. さらにその写像全射であることを,正則点の個数の関数を用いて示す.
  4. 定理に結びつける.

という感じです.

証明

定理(代数学の基本定理) 複素数体代数閉体である.すなわち,任意の一変数複素係数多項式複素数の根を少なくとも1つ持つ.

(証明)
任意の  P \in \mathbb{C} \left[ z\right] について, a_0, \ldots, a_n \in \mathbb{C} (ただしa_0 \neq 0) を用いて

 P = a_0 z^n + \cdots + a_{n-1} z + a_n

と表されているとする. P \mathbb{C} から  \mathbb{C} への関数を定めるが,実部と虚部に分けて考えても2つとも多項式で表されているので,通常の微分に関して滑らかである.

今、3次元実ユークリッド空間  \mathbb{R}^3 に単位球面  S^2 があると考える.

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ここで,単位球面の北極  (0,0,1) から  \mathbb{R}^2 平面へのステレオグラフ射影  h_+ を考える.

ステレオグラフ射影については「Dimensions」という動画の1話で分かりやすく説明されています.ちなみに,Youtubeにあるこの動画の関連動画には,どこかで見たことのある方が五次方程式の解の公式についてお話されている動画が出てきます.

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定式的には,

 h_{+} : S^2 - \left\{ (0,0,1)\right\} \to \mathbb{R}^2 \times \left\{0\right\}

となり,北極以外の  S_2 の点  x を,北極から  x に引いた半直線が  \mathbb{R}^2 平面にぶつかる点に送る滑らかな写像である.

これらを用いて次のような写像  f : S^2 \to S^2 を考える.

\begin{equation} f(x) = \begin{cases} h_+^{-1} \circ P \circ h_+ (x) & (x \neq (0,0,1))\\ (0,0,1) & (x = (0,0,1)) \end{cases} \end{equation}

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これは,単位球面上の  (0,0,1) 以外の点を  \mathbb{R}^2 平面上にステレオグラフ射影し,この平面を複素平面だと思って  P で別の複素数に送り,ステレオグラフ射影で単位球面に引き戻すような写像である.

 f S^2 上滑らかであること

構成より, f x \neq (0,0,1) においては滑らかな写像の合成であるので, f もまた滑らかである.これが  x = (0,0,1) の近傍においても,つまり定義域において  f が滑らかな写像であることを示す.まず,南極  (0,0,-1) から  \mathbb{R}^2 平面へのステレオグラフ射影を  h_- とし, Q: \mathbb{C} \to \mathbb{C}

 Q(z) := h_- \circ f \circ h_-^{-1} (z)

とする.

 z \neq 0 においては, f = h_+^{-1} \circ P \circ h_+ (x) であることから,

 Q(z) := h_- \circ h_+^{-1} \circ P \circ h_+\circ h_-^{-1} (z)

と表される.ここで, h_+ \circ h_-^{-1}(z) を計算する.

もちろん,この値は計算で求めることができますが,教科書にある通り,「初等的な幾何学の知識」を用いて簡潔に求めてみたいと思います.

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複素数  z を含むように空間を縦で割ると上図のように表される.

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赤色と青色の三角形は「直角以外の一つの角が等しい」ので相似である.

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すると,赤色の三角形のうち,ちょうど  h_+ \circ h_-^{-1}(z) のノルムに対応する辺の長さは  \frac{1}{|z|} であることが分かる.よって,求めたい実際の複素数  h_+ \circ h_-^{-1}(z) は,その単位ベクトルにノルムをかけたものであるので,

\begin{equation} h_+ \circ h_-^{-1}(z) = \frac{1}{|z|} \cdot \frac{z}{|z|} = \frac{1}{\overline{z}} \end{equation}

となる.ただし, \overline{z}複素数  z複素共役を表す.

以上のことから, Q を整理する.複素共役は積や和に分解し,複素共役複素共役は元の複素数になることなどを用いると,

\begin{align*} Q(z) &= h_- \circ h_+^{-1} \circ P \circ h_+\circ h_-^{-1} (z)\\ &= h_- \circ h_+^{-1} \circ P (1/\overline{z})\\ &= h_- \circ h_+^{-1} (a_0 (1/\overline{z})^n + \cdots + a_{n-1} (1/\overline{z}) + a_n)\\ &= 1 / \overline{(a_0 (1/\overline{z})^n + \cdots + a_{n-1} (1/\overline{z}) + a_n)}\\ &= 1 / (\overline{a_0} \overline{(1/\overline{z})^n} + \cdots + \overline{a_{n-1}} \overline{(1/\overline{z})} + \overline{a_n})\\ &= 1 / (\overline{a_0} (1/z)^n + \cdots + \overline{a_{n-1}} (1/z) + \overline{a_n})\\ &= z^n / (\overline{a_0} + \overline{a_1} z + \cdots + \overline{a_n} z^n) \end{align*}

となる.すると, a_0\neq 0 であることから  Q z = 0 においても値  0 をもち,さらに有理関数の形で表されるので滑らかな関数である.よって, f = h_-^{-1} \circ Q \circ h_- もまた滑らかな関数となる.

 f の臨界値が高々有限個であること

 P複素関数であり,実部と虚部に分けることで実数値関数の対と考えることができる.つまり,実数係数多項式  P_1, P_2 を用いて  P = (P_1(x,y), P_2(x,y))と表すことができる.ここで, P多項式によって表される関数であるので複素正則関数である.よってコーシー・リーマンの方程式が成り立つ.今の場合,

\begin{equation} \frac{\partial P_1}{\partial x} = \frac{\partial P_2}{\partial y},\quad \frac{\partial P_1}{\partial y} = - \frac{\partial P_2}{\partial x} \end{equation}

となる.また,

\begin{equation} \frac{d P_1}{d x} = \frac{\partial P_1}{\partial x} + \sqrt{-1} \frac{\partial P_2}{\partial x} \end{equation}

となる.

なお,ここでは  x 方向の微分以外にも  y 方向の微分を考えなければダメな気がしますが,実際はこの微分は方向(局所座標)によらないことが示せるので, x 方向だけ考えれば良いことがわかります.詳しくは例の黄色と黒のラノベを読んでください.

これを複素数だと思うと,そのノルムの二乗は

\begin{equation} \begin{array}{|c|} \frac{d P_1}{d x} \end{array}^2 = \left( \frac{\partial P_1}{\partial x} \right)^2 + \left( \frac{\partial P_2}{\partial x} \right)^2 \end{equation}

となるが,複素関数  P のヤコビ行列  J(P)

\begin{equation} J(P) = \left[ \begin{array}{cc} \frac{\partial P_1}{\partial x} & \frac{\partial P_1}{\partial y}\\ \frac{\partial P_2}{\partial x} & \frac{\partial P_2}{\partial y} \end{array} \right] \end{equation}

となることから,ヤコビ行列の行列式

\begin{equation} \mathrm{det} J(P)= \left( \frac{\partial P_1}{\partial x} \right)^2 + \left( \frac{\partial P_2}{\partial x} \right)^2 \end{equation}

となり,ちょうど

\begin{equation} \begin{array}{|c|} \frac{d P_1}{d x} \end{array}^2 = \mathrm{det} J(P) \end{equation}

となることが分かる.ここで,ヤコビ行列の行列式0 になる点が  P の臨界点であることから, P の臨界点は  d P/ d x = 0 である点に対応することが分かる.しかし, P は定数でない多項式であったので,  d P/ d x もまた多項式であるので, d P/ d x = 0 になる点は有限個しかない.

よって  P の臨界点は有限個しかないので,構成から  f : S^2 \to S^2 もまた臨界点は有限個しかなく,故に臨界値は有限個に限られる.

連結位相空間上の局所定数関数は定数関数であること

ここはメインの証明の付加的な要素になるので,読み飛ばしても大丈夫です.

ここで,題にあるような補題を証明する.

 C を連結空間, g: C\to \mathbb{R} を局所定数関数とする.任意の  C の点  x_0 を一つ固定して考える. C_0, C_1 \subseteq C

 C_0 := \left\{ x \in C \middle| g(x) = g(x_0)\right\}
 C_1 := \left\{ x \in C \middle| g(x) \neq g(x_0)\right\}

とする.定義から, C_0 \cap C_1 = \varnothing C_0 \cup C_1 = C である.

ここで, C_0, C_1 がそれぞれ  C の開集合であることを示す.

任意に  y_i \in C_0 を取る.定義より  g(y_i) = g(x_0) である.ここで, g は定数関数であることから,ある  y_i を含む開集合  U_i \subset C が存在して,任意の  y \in U_i について  g(y) = g(y_i) となる.

よって,任意の  y \in U_i について  g(y) = g(x_0) となるので  U_i \subset C_0 となる.

ここで,任意に取った  y_i \in C_0 C_0 の中で動かすことで, U_i C_0 を被覆することが分かる.つまり,

\begin{equation} C_0 = \bigcup_{y_i \in C_0} U_i \end{equation}

となる.各  U_i は開集合なので,その可算個の和集合である  C_0 もまた開集合となる.同様にして  C_1 も開集合であることが示せる.

以上より  C_0, C_1 は開集合となるが, C は連結空間なので,交わらない開集合で分割することはできないはずである.よって

  1.  C_0 C 全体で  C_1空集合になる
  2.  C_0空集合 C_1 C 全体になる

のいずれかになる.しかし,今  x_0 を固定して考えていたが, x_0 自体は  g(x_0) = g(x_0) を満たすので, x_0 \in C_0 であることから, C_0空集合ではない.よって1つめのパターンとなる.

よって  C 全体で  g は一定の値を取るので,全体でも定数関数となる.

帰結

今, S^2 は連結空間である. f の臨界値は有限個であったので,正則値全体は連結である.( \because 無限連結空間から有限個の点を除いただけであるから.)

 \# f^{-1} : \mathrm{Reg}(f) \to \mathbb{R} を, f の正則値から,その逆像である正則点の個数を与える関数とすると,これは有限の値を取る局所定数関数になる.

と,前のページに書いてあります.

しかし,先に示した補題から, \# f^{-1} は正則値全体で定数関数になる.

さらに,任意の  f の正則値 y \# f^{-1}(y) \neq 0 であることも分かる.もし,ある正則値  y \# f^{-1}(y) = 0 であるとき, \# f^{-1} が定数関数であることから,任意の正則値で  \# f^{-1}(y) = 0 となるが,このとき  f の像はすべて臨界値となり, S^2 全体が臨界点となるが,臨界点が有限個であったことに矛盾する.

よって,定数関数  \# f^{-1} 0 でない.さらに,臨界値は臨界点から来るので, f の値域である S^2 の点は正則値であっても臨界値であっても  f によってその点に対応するような  S^2 の点が存在するので, f全射である.

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よって, f で送ると南極に行くような点が少なくとも1つ存在する.その点は道中で  P によって  0 に送られているので, P は必ず1つ零点をもつ. \square


以上です.だいたいこんな感じです.ありがとうございました.