愛想モルフィズム

I saw what I am

Hartshorne §1 Varieties, Lemma 4.3

見切れている数式はスクロールで表示できます.
本記事における多様体代数多様体のうちアフィン多様体,準アフィン多様体,射影多様体,準射影多様体のいずれかのことを言い,多様体がアフィンであるとは何らかのアフィン多様体と同型であることを言う.

命題

命題4.3 任意の多様体  Y について,アフィン開集合を含む位相基底が存在する.

命題だけ言われてもなんのこっちゃですが,これを示します.

証明

テキストでは次のステートメントを証明します:

命題4.3改 任意の多様体  Y の点  P とその開近傍  U について,あるアフィン開集合  V が存在して  P \in V \subseteq U を満たす.

これは, U を固定して  U の任意の点  P \in U に対してそのような開集合  V が存在すると, U の中で  P を動かしてもそれに応じて  U の中に開集合が取れます.このようにして得られる開集合たちは  U を覆い尽くすので, U を生成していると言えます.これが任意の開集合についても言える(任意の開集合がアフィン開集合で覆える)ので,元の命題が示されたと言えます.

ということで付きの命題を示すわけですが,加えてこの命題にさらなる単純化を与えます.

まずはじめに,命題の中で  P の開近傍  U を取っていますが, U 自体も(多様体の開集合,つまり一般的に言えば準射影多様体であるという意味で)多様体であるので,そもそも多様体全体を取って来て  U = Y としても良いことが言えます.

さらに,多様体は(一般的に言えば準射影多様体であるという意味で)準アフィン多様体と同型な開被覆が存在する( \because 2.3)ので, Y 自体も  \mathbb{A}^n における準アフィン多様体と同型であるとして良いことが言えます.

よって,結局以下のステートメントを証明すれば良いことがわかります:

命題4.3改二 任意の準アフィン多様体  Y の点 P について,あるアフィン開集合  V が存在して  P \in V \subseteq Y を満たす.

さて, Y は準アフィン多様体ということで,何らかのアフィン多様体の開集合となっているので,閉集合  Z_1, Z_2 \subseteq \mathbb{A}^n について

 Y = Z_1 - Z_2

と表せることが定義から言えます.さらに, Y \subseteq Z_1 であり, \overline{Y} Y を含む最小の閉集合であることから  \overline{Y} \subseteq Z_1 となるので,

 Z_1 - Z_2 \supseteq \overline{Y} - Z_2

であることがわかりますが,一方で  Y \subseteq \overline{Y} であり,書き直すと  Z_1 - Z_2 \subseteq \overline{Y} となりますが,

\begin{align*} \overline{Y} - Z_2 &\supseteq Z_1 - Z_2 - Z_2\\ &= Z_1 - Z_2\\ &= Y \end{align*}

ということで  \overline{Y} - Z_2 \supseteq Y ということが言え,

 Y = Z_1 - Z_2 \supseteq \overline{Y} - Z_2 \supseteq Y

従って

 Y = \overline{Y} - Z_2

が成り立ちます.

ここで, Z_2 \mathbb{A}^n閉集合であるので, Z_2 = V(f_1, \ldots, f_r) とします.すると,

 Y = \bigcup_i (\overline{Y} - V(f_i))

と変形できます.しかし,それぞれの  i について, Y \supseteq \overline{Y} - V(f_i) であることから

\begin{align*} Y - V(f_i) &\supseteq \overline{Y} - V(f_i) - V(f_i)\\ &= \overline{Y} - V(f_i)\\ &\supseteq Y - V(f_i) \qquad (\because \overline{Y} \supseteq Y) \end{align*}

となります.よって

 \overline{Y} - V(f_i) = Y - V(f_i)

となるので,

 Y = \bigcup_i (Y - V(f_i))

と表すことができます.

ここで, Y Y の中の閉集合であり,さらに  V(f_i) \subset Y Y の中で閉集合なので, Y - V(f_i) Y の開集合となります.よって任意の点  P \in Y は,あるアフィン開集合  Y - V(f_i) に含まれるので,命題がなりたちます. \square

考察

教科書とは少し違った証明をしてみました.では,これはどのような時に使えるのか,ということを考えてみたいと思います.

いま2次元のアフィン平面  \mathbb{A}^2 にいるとします.

「あ〜原点をとりのぞきて〜」

と思うことってよくあると思います.

ありますねぇ!!

よし!(迫真)

というわけで,平面から原点を取り除いたものを  Y とします.

f:id:dafuyafu:20180429044522p:plain

ちょっと見切れてしまいましたが,真ん中の点が原点で,それを取り除くので  Y は開集合です.本文では

 Y = \bigcup_i (\overline{Y} - V(f_i))

という数式が出てきましたが,今の場合  \overline{Y} は平面全体の  \mathbb{A}^2 ですが,例えば原点を通るような直線の多項式として  f = y - x g = y + x とすると,

f:id:dafuyafu:20180429045933p:plain

図では左が  \mathbb{A}^2 - V(f),右が  \mathbb{A}^2 - V(g) ですが,それぞれ閉包である全体から直線を取り除いたものですが,それらの和集合をとると考えたい  Y になっています.

本文での言及から,これらが  Y のアフィン開集合であることも同様に言えます.

f:id:dafuyafu:20180429051714p:plain

このようにして,一般の(準射影多様体であるという意味での)多様体についても,その閉包からある閉集合を除いたものの和集合で表すことができ,実はそれぞれがアフィンだということが言える,というのがこの命題の言わんとしていることだと思います.

以上です.ありがとうございました.