愛想モルフィズム

I saw what I am

同値関係よりも弱いなにか

この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2017 の 6 日目の記事です。前日の記事は横山明日希さん(@asunokibou)の「僕が好きな放物線の小ネタ3選」でした.

asunokibou.net

前置き

だふやふです.どうぞよろしくお願い致します. 僕は趣味でボーカロイド曲を作っているのですが,その動画についての記事を@tsujimotterさんに書いて頂いたことがきっかけで日曜数学会という団体を知りました.

tsujimotter.hatenablog.com

そして第6回日曜数学会に参加させて頂き,とても貴重な数学体験をさせて頂きました. ただ,その後の日曜数学会でLTを当日にキャンセルするという失態を犯してしまい,関係者の皆様方に大変なご迷惑をおかけしました.申し訳ございませんでした. 次参加できる機会がありましたら,富山のおいしいお菓子を持っていきますので,どうかよろしくお願い致します.

導入・・・「似てる」の数学

さて,数学に移ります.皆さんは,「何かと何かが似ているなー」と思ったことはないでしょうか?

僕は先日「ブレンド・S」というアニメを見ていたら,ふと気付いたことがありました.

www.nicovideo.jp

あぁ^〜夏帆ちゃんかわいいんじゃ^〜

ん?でもなんかあれだな…

ごちうさリゼちゃんに似てる…似てない?

リゼちゃんと言えば,きんモザあややがっこうぐらしのくるみちゃんに似ていると言われています.

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あやや リゼ くるみ - Google 検索

そうなってくると,ある疑問が浮かんできます.

夏帆ちゃんとあややは似てるのか?

夏帆ちゃんくるみちゃんとは似てるのか?

もっと言えば,「自分と自分は似てるのか?」

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という疑問を抱くに至りました.

分からないことがあれば数学に頼ればいいじゃない!ということで,

このファジーな「似ている」という概念を数学に落とし込んで考えてみたいと思います.

半同値関係

定義 1.1 集合  X 上の二項関係  R \subseteq X \times X同値関係であるとは,以下の3条件を満たすことである.
(1) 任意の  x \in X について  (x, x) \in R
(2) 任意の  x,y \in X について  (x, y) \in R \Rightarrow (y,x) \in R
(3) 任意の  x, y, z \in X について  (x, y) \in R かつ  (y, z) \in R \Rightarrow (x, z) \in R

上記が一般的な同値関係です.条件(1)から(3)はそれぞれ反射律対称律推移律と言われています.

ここから反射律と推移律を除いて考えてみたいと思います.

定義 1.2 集合  X 上の二項関係  R \subseteq X \times X半同値関係であるとは,以下の条件を満たすことである.
(1) 任意の  x,y \in X について  (x, y) \in R \Rightarrow (y,x) \in R

以下,集合  X 上の半同値関係  R \subseteq X \times X について, (x, y) \in R である時  x \smile_R y あるいは紛れのない場合  x \smile y と表します.

例 1.3  全ての同値関係は半同値関係である.逆は必ずしも成り立たない.

例 1.4   \mathbb{R} を実数全体の集合とする.二項関係  R_{\mathbb{R}}

 x \smile y \Leftrightarrow y - 1 \leq x \leq y + 1

とすると,これは半同値関係をなす.

例 1.5  \mathbb{Z} を整数環とする.二項関係  R_{\mathbb{Z}}

 n \smile m \Leftrightarrow \textrm{GCD}(n, m) = 1

とすると,これは半同値関係をなす.


例1.3は定義から明らかです.例1.4は,実数の中で自分からみて距離1以内にある別の数は,その数から自分を見てもまた距離1以内にあることから成り立ちます.また,例1.4は同値関係ではありませんが,反射律を満たします.

例1.5は,互いに素な2つの数を結びつけて作られる,ある種の非自明な半同値関係です.これは,同じ数同士はその数で割れてしまうので反射律を満たしません.

また,上に書いてありませんが,人間の「似ている」という関係性も人間集合上の半同値関係といえるでしょう.(これが反射律を満たすかどうかは議論の余地があると思います)

このように,全く同じではないけど,だいたい同じような似ている性質を持った者同士を考える際に,半同値関係は有効なのではないでしょうか.

半同値関係が誘導する同値関係

定義 2.1 集合  X 上の半同値関係  R について, x_n \smile x_{n+1} であるとき,それらを繋げて

 x_0 \smile x_1 \smile \cdots \smile x_n

などと表す.これを半同値列という.これを  \left\{ x_i \right\} などと表す.

例 2.2 (1.4)で定義した半同値関係について,

 \cdots \smile -1 \smile 0 \smile 1 \smile \cdots

という半同値列が存在する.

定義 2.3 ある集合  X 上に半同値関係  R が定義されているとする.ここで,関数  d_R: X \times X \to \mathbb{R} \cup \left\{ \infty \right\} を以下のように定義する.

\begin{equation} d_R(x,y) := \begin{cases} 0 & (x = y)\\ \textrm{min}\left\{n \mid x \smile u_1 \smile \cdots \smile u_{n-1} \smile y \right\} & (x \neq y,\ \exists \left\{ u_i \right\})\\ \infty & (x \neq y, \not\exists \left\{ u_i \right\}) \end{cases} \end{equation}

命題 2.4 関数  d_R は(拡張)距離関数である.

(証明)

(1 : 同一性) 定義より, d_R(x, x) = 0 である.さらに, x \neq y について,列の長さは最低でも1なので, d_R(x,y) = 0 ならば  x = yである.

(2 : 対称性)  x = y のときは明らかに  d_R(x, y) = d_R(y, x) である. x \neq y のときを考える. d_R(x, y) = \infty であって  d_R(y,x) = r <  \infty と仮定すると,

 y \smile u_1 \smile \cdots \smile u_{r-1} \smile x

という半同値列が存在するので  d_R(x, y) = \infty と矛盾.よって d_R(y,x) = \infty となり対称性を満たす. d_R(x, y) = r <  \inftyについて, d_R(y, x) = r' <  r と仮定すると,

 x \smile u_1 \smile \cdots \smile u_{r-1} \smile y
 y \smile v_1 \smile \cdots \smile v_{r'-1} \smile x

という2つの異なる半同値列が存在することになり, d_R(x, y) = r であること,つまり,半同値列の長さの最小値が  r であることと矛盾する.よって対称性を満たす.

(3 : 三角不等式)  d_R(x, y) = r,\ d_R(y, z) = s とする.この時, d_R(x, z) = t > r + s と仮定すると,

 x \smile u_1 \smile \cdots \smile u_{r-1} \smile y \smile v_1 \smile \cdots \smile v_{s-1} \smile z

という長さ  r + s の半同値列が存在するので矛盾.

以上より成り立つ. \square

定義-命題 2.5 集合  X 上の半同値関係  R について,二項関係  R^*

 x \sim_{R^*} y \Leftrightarrow d_R(x,y) < \infty

と定義する.これは同値関係をなし, この  R^*半同値関係  R によって誘導される同値関係という.

(証明)

反射律と対称律は  d_R が距離関数であることから成り立つ.

 x \sim y y \sim z について,それぞれ  d_R(x, y) = r d_R(y,z) = s とすると,

 d(x, z) \leq d_R(x, y) + d_R(y, z) = r + s <  \infty

より, x \sim z となり,推移律を満たす. \square

例 2.6  \mathbb{R}^2 を2次元実ユークリッド空間とする. \mathbb{R}^2 上の半同値関係を, P=(x_1, y_1) Q=(x_2, y_2) について

 P \smile Q \Leftrightarrow x_1 = x_2 かつ  y_2 - 1 \leq y_1 \leq y_2 + 1

と定義する.

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この半同値関係は

 P \sim Q \Leftrightarrow x_1 = x_2

という同値関係を誘導し, \mathbb{R}^2 / \sim \ \simeq \mathbb{R} が成り立つ.

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例 2.7 (1.5)の半同値関係は0を除く全ての整数が同値になるような同値関係を誘導する.

注意 2.8 集合  X 上の半同値関係  R X を頂点の集合とする有向グラフである.

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一般にこのようなグラフはループや多重辺を含むが,全ての元について非反射的であれば(つまり反射的な元が無ければ)ループは存在しない.また,そのような場合,対称性から多重辺は双方向なので,それを一つの辺と見れば有向でない単純グラフを得る.

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余談 2.9 今期はブレンド・Sの他にうまるちゃんも見ているが,筆者の推しは切絵ちゃんである.


半同値関係は,それと有限長(だがどれだけ長くても良い)の半同値列でつなげることが出来る元を集めることで同値関係にすることが出来ます.

例2.7は,隣り合う数が互いに素であることから,0を除いて整数を半同値列で繋げることが出来ることを主張しています.

つまり,「似ている性質」は必ずしも同値関係を為すとは言えませんが,それを繋げて区別する手続きを経ることで同値関係にすることができます.しかし「似ている」の閾値によって,どのような同値関係に帰着するかが変わってくると思います.

半同値関係と位相空間の対応

定義 3.1 集合  X, Y について, X 上の半同値関係  R Y 上の半同値関係  S同型であるとは,ある全単射  f:X \to Y が存在して,任意の x_1, x_2 \in X について

 x_1 \smile_R x_2 \Leftrightarrow f(x_1) \smile_S f(x_2)

であることをいい, R \simeq S と表す.

定義 3.2 位相空間  X = (X, \mathcal{O}) に対し,二項関係  R_X を以下のように定義する.

\begin{equation} x \smile_{R_X} y \Leftarrow \begin{cases} \exists \left\{ x \right\} \in \mathcal{O} & (x = y)\\ \exists U\ ( \neq X) \in \mathcal{O}\ \mathrm{s.t.}\ x, y \in U & (x \neq y) \end{cases} \end{equation}

この時, R_X は半同値関係をなす.

明らかに well-defined である.

例 3.3 位相空間  X = \left\{a, b, c \right\} の開集合族  \mathcal{O} = \left\{ \varnothing , \left\{a \right\}, \left\{b, c \right\}, X \right\} について, X に対応する半同値関係  R_X は,

 R_X = \left\{ (a,a) , (b,c), (c, b) \right\}

である.

例 3.4 位相空間  X = \left\{a, b, c \right\} に離散位相を入れる.この時  X に対応する半同値関係  R_X は,

 R_X = \left\{ (a,a) , (b,b), (c, c), (a,b), (b,c), (a,c) \right\}

である.この時, R_X は同値関係をなす.

例 3.5 位相空間  X = \left\{a, b, c \right\} に密着位相を入れる.この時  X に対応する半同値関係  R_X は, R_X = \varnothing である.

定義 3.6 位相空間  X, Y半同値同型であるとは,対応する半同値関係について  R_X \simeq R_Y が成り立つことをいう.

例 3.7 集合  X = \left\{a, b, c, d \right\} 上に異なる位相構造を考える. X_1 = (X, \mathcal{O}_1),\ X_2 = (X, \mathcal{O}_2 ) について,

 \mathcal{O}_1 = \left\{ \varnothing , \left\{a \right\}, \left\{b, c \right\}, \left\{a, b, c \right\}, X \right\}
 \mathcal{O}_2 = \left\{ \varnothing , \left\{a \right\}, \left\{a, b, c \right\}, X \right\}

とすると,これらに対応する半同値関係は

 R_{X_1} = R_{X_2} = \left\{ (a,a), (a,b), (b,a), (b,c), (c,b), (a,c), (c,a) \right\}

であるので, X_1 X_2 は半同値同型である.

命題 3.8 位相空間  X, Y が同相であれば半同値同型である.


ここから先は展望です.

位相空間から対応する半同値関係を考えたので,次は半同値関係から位相空間を考えたいと思うのは自然な発想だと思います.

しかし,例3.7のように異なる位相構造でも同じ半同値関係になることもあるので,逆の操作は一意に定まらないと思いますので,もう少し研究が必要だと思います.(特にGCDのやつ)

さらに,位相空間を半同値同型で分類した時に,連結(弧状連結を含む)やコンパクトと言った位相空間の性質との関係を調べることもできると思います.

いずれにせよ,そんなにたいそうな数学でもないので,なんとなくかる〜い感じで続けて行こうかと思います.

あとがき

ハーツホーンの演習を解くために作ったこのブログですが,それ以外のこともたまーにやっていこうと思いますので,ご愛顧のほどよろしくお願い致します.

次回のAdvent Calenderは鯵坂もっちょ(@motcho_tw)さんの「なにか書きます」です.

もっちょさんはグラフでお絵かきしたり91に関する記事が有名ですが,僕はケーキを7等分する話が一番好きです.

www.ajimatics.com

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冒頭のtsujimotterさんの記事の中にある僕の楽曲「3の100乗を19で割ったあまりは? feat. 初音ミク」が全国のJOY SOUNDで配信中です.クッソ暇な時とか,歌いすぎて歌う曲がなくなった時とかに仕方なく歌ってみてください.よろしくおねがいします.

www.nicovideo.jp

最新曲「Almost Everywhere」はニコニコではなくサンクラに上げました.よろしければどうぞ.

歌詞はこちら (ピアプロのサイトに飛びます.)

また,その他の数学っぽい曲,そうじゃない曲もニコニコにあげているので,クッッッソ暇な時とかトイレ行くときとかにしゃーなしで聞いてみてください.

www.nicovideo.jp

以上です.ありがとうございました.