愛想モルフィズム

I saw what I am

Hartshorne Ex2.12 The d-Uple Embedding (a), (d)

2.12 d-重埋め込み

ある自然数  n, d \gt 0について, M_0, M_1, \ldots , M_N を全ての  n+1 変数  X_0, \ldots , X_n d 次単項式とする.ただし, N = \binom{n+d}{n} - 1 とする.ここで, \rho_d : \textbf{P}^n \rightarrow \textbf{P}^N ,ただし  \rho_d (P) = [M_0 (P) : \cdots : M_N(P) ]となるように  \rho_d を定義する.これは  \textbf{P}^n \textbf{P}^N における  d-重埋め込みと呼ばれる.例えば, n=1, d=2 のとき, N=2 であり, \textbf{P}^1 \textbf{P}^2 における  2-重埋め込みの像  Y は円錐である.

(a)  \theta : k[Y_0, \ldots, Y_N]  \rightarrow k[X_0, \ldots ,X_n] を, Y_i M_i に送るような準同型と定義し,その核を  \mathfrak{a} とする.この時, \mathfrak{a} は斉次素イデアルであり,従って  Z(\mathfrak{a}) \textbf{P}^N において射影多様体となる.

(b)  \mathrm{Im} \ \rho_d =Z(\mathfrak{a})  を示せ.

(c)  \textbf{P}^n Z(\mathfrak{a}) \rho_dによって同相であることを示せ.

(d)  \textbf{P}^3 における twisted cubic curve は,適切に座標を選ぶことによって  \textbf{P}^1 \textbf{P}^3 における  3-重埋め込みと等しくなることを示せ.

 

今回のテーマは埋め込みです.こういった演習を取り扱っている日本語のサイトがなぜか殆どなかったので,理解している範囲でまとめてみます.

 

見ていく順番ですが,(a)は比較的分かりやすいのでまず始めに(a)を見て,その後(b)に行く前に一度具体的な例として(d)を見ます.その後に(b)と(c)を順番に見ていきます.

 

 

(a)の証明

示すべきことは4つある.

  •  \thetaが準同型であること
     f(Y_0, \ldots , Y_N) \rightarrow f(M_0, \ldots , M_N) は,変数に単項式を代入しているだけなので,環準同型であることは容易にわかる.

  •  \mathfrak{a} = \mathrm{Ker} \ \theta が素イデアルであること
     \theta の終域が整域であるので成り立つ.

  •  \mathfrak{a} が斉次イデアルであること
     f \in \mathfrak{a} (ただし  f \neq 0 )について, S = k[Y_0, \ldots , Y_N ]の  d 次斉次元全体を  S_d と表すと, f \in Sより, f = \sum s_i \quad (s_i \in S_i) と一意に表すことが出来る.
    ここで, \theta (f) = \sum \theta (s_i) だが, \deg \theta (s_i) = d \cdot i であるので, \theta (s_i) = 0となり, s_i \in \mathfrak{a} が分かる.よってfは斉次イデアルの定義を満たす.

  •  Z(\mathfrak{a}) が射影多様体であること
     \mathfrak{a}が斉次素イデアルであることから成り立つ.

 

(d)の説明

まず,一般的なものを見る前に,幾分か具体的な対象について,この埋め込みを考えてみたいと思います.それが twisted cubic です.

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 \mathbb{R}^3 においてパラメーター表示をすると (t, t^2, t^3) となるような曲線です.

 

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これは曲面で言うところの  Y = X^2 Z = X^3 の共通部分として表される対象でもあります.

 

代数幾何というからには,このように幾何的な点の集合と代数的な方程式の関係を調べることが目的だと言えるでしょう.

 

さて,抜本では twisted cubic は 代数閉体  k 上の  3 次元アフィン空間  \textbf{A}^3 におけるアフィン多様体  Y = \{ (t, t^2, t^3)\ | \ t \in k \ \} として述べられています.

 

ここでは,その射影閉包たる twisted cubic curve  \overline{Y}^{\textbf{P}^3} が埋め込みになっていることを証明します.

 

(d)の証明

 \rho_3: \textbf{P}^1 \rightarrow \textbf{P}^3について,

 \left[ x_0 : x_1 \right] \longmapsto \left[ y_{3,0} : y_{2,1} : y_{1,2} : y_{0.3} \right]

 

という具合に添え字を付けてみます.これは  \rho_d が変数をどのような d 次単項式に移すかを表していると言えます.というよりも,このように添字を付けると考えやすい,といった具合なので,特に気にする必要はありません.普通に \left[ y_0 : \cdots : y_3 \right] としても良いと思います. 以下, N+1 個ある方の変数の添字は y_{e_0, \ldots , e_n} のようにして表します.

 

ここで, \mathrm{Im}\ \rho_3 \subset \ Z(\mathfrak{a}) は定義からほとんど自明です.なぜならば,任意の  Q \in \mathrm{Im}\ \rho_3 について,

 \exists P = \left[p_0 : p_1 \right] \in \textbf{P}^1 \ \ \mathrm{s.t.} \ \ \rho_3(P) = Q

といえます.ここで,任意の  f \in \mathfrak{a} について,

 f(Q) = \theta(f)(P) = 0

が成り立ちます.これは, 3次の単項式に Pを代入してから  f で送るのと,変数が  Y多項式に単項式を代入して変数が  X の多項式になった状態で  P を代入するのが同値であることから直ちにわかります.

従って  Q \in Z(\mathfrak{a}) となります.

では,次に逆の包含を見ていくのですが, Q = \left[q_{3,0} : q_{2,1} : q_{1,2} : q_{0,3} \right] \in \ Z(\mathfrak{a}) として一つ主張を示します.

 \textbf{Claim} : q_{3,0} \neq 0 \ \mathrm{or}\ q_{0,3} \neq 0

これは, Q \in Z(\mathfrak{a}) をとってきた時に,端っこの座標が同時に全部0になることはなく,少なくとも1つは0でないものがあることを意味しています.

(主張の証明) 背理法で示す.つまり, q_{3,0} = q_{0,3} = 0 と仮定する.

 X_0^3 \cdot X_0 X_1^2 - (X_0^2 X_1)^2 = 0

より,

 Y_{3,0} \cdot Y_{1,2} - Y_{2,1}^2 \in \mathrm{Ker}\ \theta \ (= \mathfrak{a})

となり,これに Q \in Z(\mathfrak{a}) を代入すれば

 q_{3,0} \cdot q_{1,2} - q_{2,1}^2 = 0

となるが,仮定より  q_{2,1} = 0 となる. 同様に,

 X_1^3 \cdot X_0^2 X_1 - (X_0 X_1^2)^2 = 0

より,

 Y_{0,3} \cdot Y_{2,1} - Y_{1,2}^2 \in \mathrm{Ker}\ \theta

となり,これに Q \in Z(\mathfrak{a}) を代入すれば

 q_{0,3} \cdot q_{2,1} - q_{1,2}^2 = 0

となるが,仮定より  q_{1,2} = 0 となる.

以上より Q = \left[0:0:0:0\right]となり, Q \not\in \textbf{P}^3となって矛盾. \square

従って, q_{3,0} q_{0,3}のどちらかは 0でない.対称性より q_{3,0} \neq 0としても一般性を失わない. 以上より,

 Q = \left[q_{3,0} : q_{2,1} : q_{1,2} : q_{0,3} \right] \sim \left[q_{3,0}^3 : q_{3,0}^2 q_{2,1} : q_{3,0}^2 q_{1,2} : q_{3,0}^2 q_{0,3} \right]

となるわけだが,先程出てきた等式はやはりここでも成り立つ.つまり,

 q_{3,0} \cdot q_{1,2} - q_{2,1}^2 = 0
 q_{3,0}^2 \cdot q_{0,3} - q_{2,1}^3 = 0

が成り立つ.これを代入し,

 Q = \left[q_{3,0}^3 : q_{3,0}^2 q_{2,1} : q_{3,0} q_{2,1}^2 : q_{2,1}^3 \right]

を得る.しかしこれは,見て分かる通り2つの変数を 3次単項式に移したものである.形式的に記述すれば,

 \exists Q' = \left[q_{3,0} : q_{2,1}  \right] \in \textbf{P}^1 \ \mathrm{s.t.}\ \rho_3(Q') = Q

である.よって Q \in \rm{Im}\ \rho_3 が示される.

 

以上より  \rho_3 : \textbf{P}^n \rightarrow Z(\mathfrak{a}) 3-重埋め込みが構成できる.

 

ここで, Y \in \textbf{P}^3 を twisted cubic curve とすると,そのイデアル

 I(Y)=(Y_2^2 - Y_1 Y_3,\ Y_1Y_2 - Y_3 Y_0,\ Y_1^2 - Y_2 Y_0)

と表される.(グレブナー基底を用いて求めた.)

 

明らかに  I(Y) \subset \mathfrak{a} である.また,逆の包含は,任意の  f \in \mathfrak{a} について,

 f = A(Y_0, Y_3) + B(Y_0, Y_3)Y_1 + C(Y_0, Y_3)Y_2 + I(Y)

と書ける.(ただし,少し計算が必要) これを  \theta で送ると,

 \theta (f) = A(X_0^3, X_1^3) + B(X_0^3, X_1^3)X_0^2 X_1 + C(X_0^3, X_1^3)X_0 X_1^2 = 0

となるが,それぞれの項の指数を考えると, A=B=C=0 であることが分かる.よって f \in I(Y)である.

 

従って, \mathrm{Im} \rho_3 = Z(\mathfrak{a}) = I(Y) となり,この埋め込みは twisted cubic curve を表していることが分かった. \square

 

 

というわけで,(a)と(d)が終わりました.次回以降で一般的に(b)と(c)の証明を見ていきたいと思います.